機械式時計のオーバーホールは外したテンプを上手く戻すことができなければ正確な時を刻める時計に戻せません。
しかし、この作業がなかなかの難易度で、いとも簡単にヒゲゼンマイを絡めてしまう始末。
コツのようなものはないのか探すにも情報は少なく、このままでは上達する見込みもないため、自分の出来る範囲で追求してみることにしました。
なお、当記事にまとめた内容は個人の趣味の範囲のもので、参考にされたところでムーブメントの組立がスムーズに行くわけではありません。
テンワが正常に止まる位置
今回、対象としたのはSEIKOの所謂7S系とよばれるムーブメントです。4R35、6R15あたりでは仕組みがホボホボ共通かと思われます。
はじめに仕上がりの参考にしたのは6R15です。
まずは肝心なテンワが納まっている位置を確認しておきたいのですが、周りのパーツとはつかみ所のない位置関係。
テンワの内側とアンクル受の隙間が少ないのが、画像の右上に見えるアンクル受のネジに近い部分だということでしょう。
ここ以外はアンクル受とテンワの間に隙間が出来ています。
それから機械の主ゼンマイのエネルギーが解放しきった状態でテンワがどの角度で止まっているかも覚えておきたいポイントです。
このテンプの振りが止まった場所が意味するところを調べてみます。
周りのパーツを外して分かりやすい状態にするため、今度は7S26の地板にアンクルとアンクル受を付けただけの状態にしています。
そこにヒゲゼンマイを外したテンプを同じ角度で載せている状態です。
ちょうど、振り石がある位置とアンクル、ガンギ車の穴石が直線に並んでいるように見えます(微妙にズレはある)。
振り石のある位置が分かるようテンワに青いマジックで印を付けています。
おおよそアンクルの竿が中立になる位置ですね。
これら二つのことから、テンワの内側をアンクル受のネジ側に掠める程度の位置に置き、且つ振り石が、ガンギ車、アンクルの軸を結んだラインの延長の位置へ収まるようテンプを取り付ければスムーズに動作する可能性があると考えられます。
そして、振り石を入れる方向は地板の外側から内側方向へ時計回り。
実際にテンプを置く位置
ここまでで、分解していない正常に動くムーブメント(4R35、6R15など)の停止時にテンプが落ち着く位置と角度は分かりました。
肝心の取付け時にどう置くかですが、縦横の位置関係は最初の6R15と同じ場所を狙えば間違いなさそうです。ポイントは天真を穴石へ入れようとするときに振り石があるべき角度。
次の2パターンほど試してみましたが、テンプを入れる前に予めアンクルの竿をムーブメントの外側に振ってあるのはどちらも共通です。
パターンA
まずは王道狙いで、7S26のオーバーホールを扱った動画で最もスムーズにテンプを入れている方では画像の角度でした。
テンワを横断している横棒みたいな部分を受ネジ(右上)に載せる感じで設置。
ヒゲゼンマイなし、テンプ受なしで何度か試してみたところ面白いほどスムーズに入ります。
この角度からだと手前に見える天真の突起をアンクル受けの山状に突き出た部分へ丁度合わせるよう入れるとスムーズに入る感じがしないでもありません。
ただし、この突起はヒゲゼンマイをテンプ受けに取り付けた時点で見えないので確認できない上、この軸の形状も個体ごとに異なるものかもしれません。
更に本当にこの角度でよいのか、微妙にずらして入れてみることにしました。
テンワの横棒がネジの頭より若干左回り方向に置いてみたところ入ることには入ります。
続いて右回り寄りでネジの頭の真上くらいに横棒を置いてみても同じように入りました。
ただし、一番入れやすい角度は最初に書いたとおり左下に見えるアンクルの受石が全部見える状態、右上はネジの中心よりも左よりになる位置が良いようです。
何度も繰り返しているうちに、床に落としてしまい埃がついたり傷ついたり見た目がお粗末になってしまいました。
パターンB
続いて、パターンA以外に自分が入れやすいと感じたのが、天真を置いた後にテンプや機械を回転させるす範囲が少なくても済む角度です。
ほぼ水平の位置からほんの少し左回り寄りで天真を挿入。青い印の場所から降り石はアンクルに近い位置へ落とし込んでいるのが分かります。
ヒゲゼンマイなしだと簡単に置けました。
本番でも、この角度で入ってくれれば楽ですが、実際にヒゲゼンマイとテンプ受が繋がった状態だと簡単かどうかは場数を踏まないと分かりません。
ピンセットで持ったテンプ受や機械台を回している間に手がプルプル震えて、正確な場所へ置いたはずの天真がずれてしいまうのは、この作業の大きな問題点であるのは間違いありません。
そんなの気にもせず、真上から狙いを定めてストンとストレートに下げているだけという方も多くいらっしゃることも確かです。
そういった画像や動画を見ると、いったい何が正しいのか分からなくなります。
外側からスライドさせるか
アンクル受けの形状や達人たちの手の動きから、天真を穴石に入れるのに画像の右方向からスライドさせて入れるたほうが良いように感じますが、目的の軸穴へ設置できるかどうかは中心に寄せてからの問題のようです。
アンクル受が外向きに開いている(C型の形をしている)のは横から覗けるから程度に考えていたほうが良いかもしれません。
テンプ全体を横からスライドさせるというより、コツが分かるまでは軸と穴、振り石とアンクルの竿の4つの位置関係を意識するよう狙うのも一つの手でしょう。
テンプが振れない理由
ここぞと思われる位置と角度でテンプを入れることに成功したら、テンワをピンセットなどでツツいてみると動き始めるはずですが、テンプの取付に失敗していて動かない状態を外見から判断するにはどうすれば良いのでしょう。
正直、これについては外見で判断するよりテンプを置いた状態で振り出さないのは、上手く入っていないからか油の付けすぎかと素直に受け止めたほうが良さそうです。
それでも何とか確認する方法は?となると、ムーブメントの外側へ向けていたアンクルの竿が振り石を受けずに動いてしまっていないか確認できれば、入れ方に成功したか失敗したかの判断はできそうです。
キズミでアンクルの爪石を掴んでいる金属(台座)が画像のように両方見えてしまっていれば竿が動いてしまっているので、天真が受け石に入っていてもテンワが振りません。
逆に出爪の石と金属の片方だけが見えている状態だと振り石がアンクルのフォーク状の先に入った状態なので少しの衝撃でムーブメントが動き出してくれます。
これも微妙な差なので見分けは難しいです。
動きの良い新品の機械で練習
テンプを入れる際に、狙う位置、入れる角度は上に書いたとおりですが、それ以外にも入れやすい方法があるかもしれません。
これぞというコツが見えてきたら、それを基に練習を繰り返すしかありませんが、このテンプの取付の練習は自分が初OHに挑戦したムーブメントではなく、できれば新品を使ったほうが良いでしょう。
汚れが残っていたり、油が多いか足りないかが混じっているような機械で練習しても簡単には動きません。
新品のムーブメントを使って、その上に絡めた際に使う予備のヒゲゼンマイまで用意してとなると出費が増してしまいそうですが、なかなかコツが掴めない上に情報もないとなると、とことん入れ込んで経験を積むしかないでしょう。
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