自動巻きの腕時計は専用の工具などを揃えれば自分で簡単にオーバーホールできるものなのだろうか。
時計好きの方の中には、できれば休日などを利用してオーバーホールの作業に挑戦してみたいと考える方もをいらっしゃることでしょう。
当サイトで過去に何度かオーバーホールに挑戦してきた経験から、その辺の事情について解説してみることにします。
時計のオーバーホールは自分でできるのか
自動巻きの時計などお気に入りの時計を長く使い続けたいなら、定期的に時計店やメーカーへオーバーホールに出す必要があります。
このオーバーホールには、部品代や技術料などの費用がかかることになり、これを負担に感じる人も少なくないことでしょう。
この費用を避けるために、時計のオーバーホールを自分ですることはできないだろうかと考えた場合、いくつかの課題が存在します。
結論から言うと、時計店やメーカーに支払う費用と引き換えに、素人作業なりにかかってしまう部品代と時間の確保が非常に難しいということになります。
当然、上手く元に戻せなくて結果的に時計店に世話になってしまったということもあり得るでしょう。
オーバーホールには忍耐力と費用、時間が必要
実益を追求するための作業に共通して要求されるのが目的達成のための知識です。
これは腕時計のオーバーホールでも同じことですが、多くの時計好きの方には「興味、関心」または「時計へ向けられる熱量」と少しの時間があれば解決できることと思います。
この気力と知識をもって実践に臨むわけですが、実践環境でさらに求められるのは時計の精度を満たせるまで長時間の作業に取り組める忍耐力(持ちこたえる力)です。
こうした長時間の作業に挑める忍耐力の他に、失敗にめげず部品を調達し続ける費用とオーバーホールに集中できるだけの時間の確保も重要です。
趣味の範囲内とはいえ、ヒゲゼンマイなどのデリケートな部品や作業スペースから落としてしまうと見つかりそうになりパーツは予め予備を用意しておく程度の用心深さが時計のオーバーホールでは丁度よいようにも思います。
そして、あまりに熱中しすぎるあまり時間を取られ過ぎてしまうといった事態を避けるためにも、作業にあてる時間の管理も徹底すべきでしょう。
時間を管理するための便利ツールの手入れに過大な時間を浪費することになってしまっては楽しさが半減してしまいます。
作業に必要な知識
時計のオーバーホールに関してWeb上で集められる知識というのは限定的なものになっています。
そんななかでも、次の点については重要なものとして抑えて置きたい知識と言えるでしょう。
2、3番の表現が抽象的すぎますが順に解説していきます。
分解前に巻かれている主ゼンマイを解放する
オーバーホール時に時計が動いていなくても、香箱車の中のゼンマイにはエネルギーが残っている場合があるので、この分を事前に開放してからテンプを外すことになります。
手巻き機能があれば竜頭を押さえながら、自動巻きなら香箱車そのものを押さえながらゼンマイにかかっているテンションをなくす手法を取ります。
腕時計のオーバーホールでは、ただ単純にムーブメントを分解するだけでなくいくつか注意点があるようです。
ネットにある「てんぷ」の取り付けは職人技
動画投稿サイトなどにある主に7S26でのオーバーホールの実践シーンで、てんぷ受をピンセットで持ちながら片手をクルンと回し地板にてんぷを置いているのが見れます。
てんぷを付けた後にテンワに軽く衝撃を与えると動き出すので見ていて面白いのですが、これが素人ではなかなか上手くいきません。
冷静によくパーツを見れば分かるのですが、地板やてんぷ受にある穴は小さなものですので真上から見えない位置にあります。
休日にちょっと触った程度の人がピンセットで揺れる天真をその穴めがけて、しかも回転させながらの入れるのには無理があり過ぎるので、場数をこなすのに合わせ何かしら工夫をしなければならないでしょう。
ネットの動画に惑わされ過ぎないよう落ち着いて出来る範囲のメンテナンスに抑えたいものです。
秒針の入れ方にはコツがいる
これは、特に秒針に限らず3本ある針全般についてですが、こちらもWeb上にあるテクニックに惑わされることなく素人なりの工夫が必要になってくるでしょう。
お気に入りの時計をオーバーホールするなら、貴重な純正の針は手先の技が上達するか、素人でも簡単に付けることができる方法を身につけられるまで保管して置くべきです。
機械が4R35などなら、カスタム用の針はフリマアプリなどでも入手可能なのでそういったものを練習に使うのもありでしょう。
オーバーホール環境を整える
時計のオーバーホールに関して抑えて置かなければならない知識やコツは他にもあるので、その辺は時計に傾ける情熱に併せて個別に身につけていくことになるでしょう。
そして、肝心のオーバーホールに取り組む時間を有効に確保するために、腕時計に係る環境を整えておくことも有効と考えられます。
ここでアイディアとして提案するのは次の2点
どれもDIYオーバーホールの経験に基づいた結果から、とっておきたいと考えられる対策です。
対象とするムーブメントをNH35に限定する
環境という言い方からは外れるかもしれませんが、扱うムーブメントは6R系など部品が高価なものよりパーツを安価に入手可能なNH35(4R35)などに限定したほうが、作業の柔軟性が増すことと精度面でも妥協がしやすいです。
経験談からですが、高価な機械に手を出してしまうと、オーバーホールへの熱意に比例して精度が出せないとおさまりが付かなくなってしまうということがあり得ます。
まさに時計に夢中になり「時計に時間を奪われる」という笑えない事態になりかねません。
時計のオーバーホールをすることの目的が、自分で機械の整備をした腕時計を身につけ持ち歩くことに機械好きまたは時計愛好家としての喜びを感じるのなら、その機械は高級時計の機会である必要ありません。
考え方の一例ではありますが、ことオーバーホールという作業においては時計そのものの価値に拘り過ぎるより、自分で作業できたとう達成感のほうに視点を置いた方が楽しさは増すことでしょう。
SIIのNH35機械式ムーブメントのこと【NH36、38やTMIロゴなど】
途中で休止できる手段を用意しておく
オーバーホールを中断できる環境については、予定していた休日に何が何でも終わらせなければならないという焦りや不安を予防して、常に落ち着いた状態で作業に集中できるよう準備したいものです。
素人オーバーホールだけに、途中で追加のパーツを注文しなければならなくなったり、もとから充分な時間を確保できていないときには、途中まで進んだ作業をそのまま保管できる環境が欲しくなります。
時計をいじるようになってから知ったものに「伏せ瓶」というのがあります。
見ただけで、あぁ~っ と使い道が想像できてしまう品ですが、組み立てや分解途中の機械やパーツをこうした容器に入れておくことも次の機会まで作業を中断させたいときに有効でしょう。
このように、時計好きの人が自分の時計をオーバーホール(分解清掃)したいと考えたとき、知識の習得から始まり部品調達に係る手段の確保から、長期化する作業の想定と対策など「ちょっとの努力」どころでは到達できない面が多々存在するのがDIYオーバーホールの実情です。
こうしたことが楽しめるかどうかが、オーバーホールができるかどうかの判断基準になるのではないでしょうか。
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