時計の知識に乏しい素人が自動巻き時計のオーバーホールに挑戦しても、本来の性能を回復できるような期待した結果にはならないと言われます。
機械関係の知識や技術の修得は対象とするメカへの思い入れや情熱をいかに注ぐことができるかが一つのカギになるでしょう。
しかし、自動巻きなど腕時計のオーバーホールに関してはやや難易度が高く情熱だけでもってカバーするのが難しいようです。
これは私自身も長く引きずってきた問題で、そうした時計が好きという理由だけではオーバーホールに手を出せない、または成功できない理由を現時点で分かる範囲にまとめてみました。
専用の工具と資材が必要になる
時計のオーバーホールというのが時計の機械を分解して洗浄後に組み立てる工程を指すとすれば、精密ドライバーとピンセットが主要な工具になりそうなことは想像できます。
まずは、その辺から揃えながら足りない工具を買い足していけばなんとかなるだろうと踏むのが普通の時計ファンとしては共通する考えかと思いますし私もその入り口から入り込んだ一人です。
この方法はオーバーホールの手順を徹底して調べ質の良い工具を揃えてからスタートするより遠回りなのは他の機械的な技術の上達に係る過程と似ています。
ただし、趣味の作業に投資できる費用は限られるとなると、安くて便利に使える工具を地道に選んでいく遠回りをいかに楽しんで継続できるかで解決は可能と判断できます。
また、時計の機械を組み立てるときに使用する油については、詳しい情報が少ないため最初からメーカー指定のものを揃えたほうが無難かと考えます。
素人オーバーホールは成功体験を積みづらい
オーバーホールの全体の流れを大まかに「分解→清掃→組み立て」の工程に分けることができたとして、それぞれの工程でも押さえておきたい基本的な手順が存在します。
その手順を理解しないままムーブメントを分解すると細かなパーツを破損させてしまうことが普通にあって、その結果素人による時計のオーバーホールは失敗に終わることになります。
破損させてしまったのはどのパーツか、または経年により損耗してしまっているパーツはどれなのか分別をつけるのは難しく、素人作業では組み立てたムーブメントが「正確に」どころか動くかどうかの確率がほぼゼロ。
この初回の失敗を受け入れたあと、さらに別の時計の機械を分解して組み立てる気分になったとして、経験も知識も不足したままでは結果に改善は期待できないでしょう。
このように知識がないままで時計のオーバーホールに挑戦しても、成功体験を積み上げることが非常に難しいためモチベーションは長続きしにくく失敗が続くことで逆にメンタルが削られることにもなります。
連続した作業時間の確保が上達のコツ?
個人が趣味レベルで始める時計のオーバーホールでは「とりあえず1個でも動く時計に組み上げる」ことが目標で精度云々は遠い先の話になりそうです。
とりあえす1個でも動く時計を組み上げるには、自分がどの部分で失敗したのか具体的に歯車を破損させたタイミングや注油の量が影響したと思われる部分が記憶にあるうちに同じムーブメントを使って作業を繰り返すことが効果的と考えます。
その結果、一日でも早く成功体験を得るには連続した作業時間をどれだけ確保できるかどうかにも課題の一つになるでしょう。
もちろん、成果が出るまでには個人差があることを考慮するなら確保するべき時間は5月や年末年始の連休だけでは足りないかも知れません。
具体的なテクニックの修得も大事ですが、繰り返すための作業時間をいかにして生み出していくかといった工夫も時には必要と言えそうです。
部品の手配もクリアしたい課題
自動巻き式の時計を実際に分解し慣れない作業を繰り返していくと不意の破損のほか紛失などの事態も避けられません。
小さなパーツをピンセットで弾いて飛ばしてしまうと、探し出せずに作業が中断してしまうこともありあます。
今度こそ動く時計に仕上げると意気込んでいたところで予期せぬパーツの破損や紛失があると、部品の注文から配達までで数日かかってしまい、その間取り掛かっていたムーブメントは丁寧に保管したまま放置ということにもなりかねません。
私自身の経験からしても、こうした部品関係の課題は深刻なものでテクニックが上達しないのに数日作業が中断してしまうことはやる気を削がれる要因にもなってしまいます。
これら部品の手配に関する課題は、部品取り用としてジャンク品などのムーブメントを1つ用意しておくか、紛失したら見つけにくい小さなパーツは手持ちで用意しておくなどが効果的でしょう。
また、どうしても手持ちがなくて注文しなければならない場合でも、気兼ねなくスムーズに部品の手配が可能な時計店を探しておくことも大事かと思います。
趣味の範囲では成果に対して得られるものが少ない
時計を自分でオーバーホールしてみたいと考えて調べたことがある方は分かると思いますが、「個人で時計のオーバーホールができた」または「自分で試してみたら元通り動いた」という初回の成功体験の話はまずありません。
自動巻き時計のオーバーホールはそれだけ難易度が高いものであり、また情報源が少なく素人にとって極めて間口が狭いものであるのが分かります。
趣味のオーバーホールでは成功確率が低く得られる利益が少ないのが現実だとすると、それ用に工具や油脂類を取りそろえる費用や手間を考えればメーカーにメンテを頼んでムーブメントをそっくり入れ替えてもらったほうが費用対効果の面では優れていると判断できます。
そんな条件の中で、あえて自分で時計のオーバーホールに挑戦する理由があるとするなら、自分でメンテした時計を使うことに至高の喜びを感じるか、または「この時計自分でOHしたんだ」とか自慢話やネタに使いたい(私はこちらのクチでした)とか他にはない趣向の持ち主であるとかでしょうか。
逆を言えば、こうした特別な趣向がなければ挑戦する意欲を継続し、あくまで趣味の領域で技術を取得してOHを含めたメンテナンスやカスタムを続けていくことは難しいのかもしれません。
それと、もともと時間を有効に使うためのアイテムであるはずの時計にプライベートな時間を投入しつづける覚悟がどれだけあるかといったところにもかかってくることでしょう。
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