時計のオーバーホールで焦らずに作業を進めるには、段階ごとに区切りを設け一定の範囲まで達したら残りの行程を意識的に次の機会に先送りするのが無難かつ効果的であると考えます。
ここでは、4R35Bの組み立ての中盤をステップ2と位置づけて一番受の取り付けまで進めていくことにします。
一番受と自動巻輪列受の洗浄
前回のステップ1では筒カナを取り付けた状態で作業を一段落させていました。
組立に入る前に取り付けるパーツを洗浄します。
今回のオーバーホールでは、最初に全てのパーツを洗うのではなく段階ごとに小分けに洗浄をすることにしています。
歯車等の細かなパーツは表面をベンジンにつけて軽くブラシでこする程度にしておきます。
一番受については、Cクリップで固定されている爪レバーと伝え車、裏側にネジ止めされている一番受下座も外して洗うことにしました。
洗浄方法はステップ1で行った地板の洗浄と同じですが、このときブラシで洗っていると外したくないパーツも落ちてしまうことがあるので、洗浄前に位置関係を確認しておくと良いでしょう。
注油と組み立て
一番受に爪レバーを組み付ける箇所へ指定されているグリスは専用のグリス(外見はモリブデングリスに見える)になります。

小さなプレートを外した状態
また、一番受下座の中にはS6が指定されているので注油します。
ガンギ車と3番車用にある2か所の受石は趣味レベルの作業としては難易度が高すぎると判断し、ここでは裏側の穴石へ直接注油することにしました。
地板側も指定か所へ注油を済ませておきます。

外した順に並べたパーツ
このステップ2の段階での組み立ては、ガンギ車、3番車、香箱車、コハゼ、4番車の順にセットします。
このうちガンギ車と香箱車、4番車の3つは注油箇所が細かなポイントで指定されています。
ガンギ車は、横から見ると地板の受石が見え、3番車は確認しづらいですが定位置に入らないとぐらつくので分かります。
取り外し時の画像の通りコハゼを後回しにすると忘れやすいので香箱車を置いたらコハゼも入れてしまったほうが良いでしょう。
一番受をセットしてザラ回し
それぞれの場所に歯車を並べてコハゼの取付けも済んだら一番受をセットします。
ガタツキがないポジションにセットできたら、一番受を軽く押さえて香箱車をピンセットなどでチョンと突くとガンギ車までが「スーッ」と回ることを確認します。
この「ザラ回し」がスムーズにできることを確認してからネジを締めますが、その際も1本締め付ける毎に各歯車の動きに問題がないかチェックします。

香箱車をチョンと突いただけでガンギ車まで回る
一番受のネジ3本を全部締め終わり香箱車からガンギ車までの動きがスムーズであることがチェックできたらステップ2は完了。次回の作業のため機械が入りそうな適当なケースへムーブメントを保管します。
ここまででオーバーホールの全工程のうちで中盤は過ぎていると思われますが、慣れない作業では集中力の継続が難しいのは時計のメンテナンスも同じです。
急いてはことを仕損じるという「ことわざ」がありますが、この言われは趣味の時計オーバーホールに通じるように思います。
腕時計のメンテナンスは簡単ではなく何度も試行錯誤を繰り返すことが避けられないでしょう。そんなとき、どこかで区切りを設ける目安がないと闇雲に1から完成までの手順すべてを網羅しようと必死になり、余裕が持てず結果的に簡単なミスを繰り返すことにもなりかねません。
ここで設定した手順のように組み立てのステップを小分けにに設定できれば、作業にも余裕が生まれ細かな部分までポイントを押さえて組立てを進めることができるはずです。
時計オーバーホールの流れ
NH35Aのオーバーホールに向けてカレンダー(日車)を取り外す
NH35Aでメインの駆動系パーツを分解【趣味で楽しむ時計オーバーホール】
趣味で楽しむ時計のオーバーホール4R35B(NH35A):組み立て編ステップ1
焦らず地道に進める時計のオーバーホール4R35B(NH35A):組み立て編ステップ2 いまココ