長い間使い込まれた腕時計の中には裏蓋が固着していて開かないものがあります。
様々な手段を用いても開けることができない裏蓋を焼き切り、中の文字盤だけでも救出できないか試みることにしました。
※当記事はメンテナンス目的ではなく一部のパーツを取り出すことを目的に完全に時計を壊してしまった内容です。
入手が難しいKINETICのピンク色文字盤
今回、どうしても裏蓋を開けたい時計はSEIKOのキネティックオートリレー(5J21)。
文字盤がピンクでかれこれ20年近く前のモデルになるかと思われます。
メンズもので、こうしたカラーを用いたデザインの時計は現行ではほとんど見かけなくなりました。
このピンクゴールドなのかオレンジなのか今でははっきりと分からない文字盤のカラーが気に入ってしまったのですが、中のキャパシタと呼ばれる二次電池が寿命なので交換したいところです。
おそらく前のオーナーがメンテナンスに出した時計屋さんがスクリューバックをキツく締めすぎたのでしょう。市販のオープナーを用いても開く気配がありません。
裏蓋を開けるため試した方法
以前に記事に書いた2点支持タイプのオープナーを用いれば、ダイバーズなどを除きほとんどの時計の裏蓋は開けることができました。
ところが、手元にあるピンク文字盤のキネティックオートリレーは簡単にはいきませんでした。以下の無難な工具を用いた方法と奇抜な手法の二つを試してみます。
固定台+オープナー
今まで裏蓋がキツくハマっているスクリューバック式の時計は、左手に時計を持ち右手でオープナーを持って力ずくで開けていましたが、考えを改め3点支持タイプのオープナーと固定台を新調し再び挑戦を試みましたが結果はあっけないものでした。
裏蓋が固着しきった時計は固定台に載せたところですんなり開くことがありませんでした。
固定台を作業机(テーブル)へ置いたままでは空回りするので意味がなく作業スペースへボルト止めするなど完全に固定する必要があります。
ボルト止めのために穴を開けても良い適当な机やテーブルがないため、固定台を空回りしないように工夫し(巾木と呼ばれる部屋の壁下と自分が体重をかけた板でホールド)3点式のオープナーを用いた結果、なんと固定台が壊れてしまいました。
これで、この時計のケースが並の手段をもっては開けることが困難なことが分かりました。
故障覚悟で熱湯に入れてみる
時計が壊れるのでやってはいけない方法ですが、この段階でキャパシタの交換は諦め稀少カラーの文字盤を取り出すことのみに目的を絞り方向転換しました。
ブラックやホワイトなどのベーシックカラーのキネティックオートリレーはまだ簡単に入手が可能なので文字盤だけを別な個体へ移植することにします。
もうピンクの文字盤を使う為に手段を選びません。
鍋に沸かした熱湯に入れてケースに熱を加えてみます。固着しているネジ山やゴムシールに隙間ができることに期待して実行。
画像で分かるとおり豪快に突っ込んじゃってます。
このときケースと裏蓋の隙間1箇所から気泡が出てきていたので、固着はしているものの水分の混入は避けられなかった様子でした。
このあと直ぐオープナーを用いてみましたが、相変わらずガッチリ食いついていて開きません。
時計を無駄な危険にさらしてしまいましたが、こうまでして開かないというのはどういう事態なのか理解できません。
なお、ケースに熱を加えるならドライヤーを使えば水分の侵入だけは避けられるので、そちらの効果的かと後で気が付きました。
最終手段として裏蓋を焼き切る
ここまできたら、後には引くことができず文字盤をどうしても取り出したいので外装は壊してしまうことにします。
ディスクグラインダーを使って裏蓋を削る方法で文字盤を取り出すことにしました。
上の画像は少し削れた程度ですが、この段階で既に本体が触れないほど高温になっています。
時計を冷ましながら徐々に裏蓋を削り外周を焼き切っていきます。
スクリューバックのネジ山部分に沿って半分程度焼き切ったところで竜頭付近は思い切り切り込みを入れケース内が見えるようにしました。
冷ましながらなので、ここまで1時間以上かけてじっくり作業しています。
ここで試しに、開けた切り込みの隙間にマイナスドライバーを当てて反時計回り方向へハンマーで軽く叩いてみると…。
裏蓋がゆるむ方向へ回転するのが確認できました。
固着していた裏蓋のゴムパッキンが熱で炭化し隙間ができたのと、ディスクグラインダーの振動に剥離効果があったものと思われます。
削る前にマイナスドライバーを裏蓋の凹みに当てて叩いてみても良かったかもしれません。
こうして時計の裏蓋を外すことができましたが、しばらくは熱くて触ることができません。
なお、熱湯に入れたときの水分が熱で加熱されたため風防は曇った状態でした。
樹脂製のスペーサーは一部焼け焦げるほどで、水分の混入もあるためムーブメントの再利用は期待できないことでしょう。
肝心の文字盤へも熱による影響があったようでスペーサーが焦げた汚れが水分とともに外周へ移ってしまっていました。
文字盤の取り出しに成功
本体が冷め切ったあとに竜頭を引き抜きムーブメントと一緒になった文字盤を取り出すことに成功しました。
これで代替できる5J21キネティックを入手すれば移植が可能でピンク文字盤の時計が復活できます。
今回は市販のオープナーを使って作業を行ったあとに既に裏蓋が傷だらけで、とてもメーカーや時計店にお世話になれる状態ではありませんでした。
古い時計の裏蓋が開かなければメンテナンスが困難で使用するのを諦めなければならないことも多いことでしょう。
今回は最終手段と言うことでケースごと壊してしまった事例でしたが、今後同じようなケースがあれば裏蓋にマイナスドライバーを当てて反時計回りに叩いてみる方法は試してみても良さそうです。
どちらにしても、傷が付くのは間違いないので裏蓋が固着していると分かった時点で直ぐに時計屋に相談することが最善なのは間違いないでしょう。
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