前回、文字盤側でカレンダー周りのバラしまでが済んだ時計のオーバーホール。
向きを表に返して複雑に組まれた機械に手を付けることになり。趣味レベルの時計メンテナンスとしては、ここからが険しい難作業になります。
時計のオーバーホールは最終的に組み上げた段階で正確に動作することが求められ、分解に係る手順や機械の扱いに注意すべきポイントが多々ありますが、ここでは後半での組み立てやすさに的をしぼり分解の大まかな手順だけを解説していくことにします。
そのため、パーツの取り扱いなど個々に習得しなければならない技術については、別に詳しい資料を参照するなどで補足していただく必要があります。
ムーブメント分解の大まかな手順
分解した機械を迷うことなく元通りに組み立てるには、途中でこまめに画像を残しておくのが有効です。
その記録保存のポイントとしては、「受」や「押さえ」などと呼ばれるプレート状の部品を固定しているネジを外すことで取り外せたパーツがどれだったか、段階ごと(外したネジの種類ごと)で分かるようにしておけば組み立てもスムーズです。
ここでも、自動巻輪列受から2番受まで各パーツを固定しているネジの取り外しに絡めて分解の手順を確認していくことにします。
自動巻輪列受の取り外し

ローターを外した状態
ローターは文字盤側の分解前に取り外し済みなので表を返したNH35Aは画像のような状態です。
最初に手を着けるのは自動巻輪列受です。
2本のネジを緩めるて自動巻輪列受と2番伝車を取り外します。
主ゼンマイの解放
2番伝車がなくなると、巻き上げに係る部分が香箱車と切り離されるので、このタイミングで巻き上げられている主ゼンマイを解放させることにします。
やり方は、角穴車の上にある角穴ネジにドライバーを当てて、歯車の回転を押さえながらコハゼを手前に引き、そのまま角穴ネジのドライバーを力がかかっている方向(左回転)に少しずつ回すようにしてゼンマイを緩めます。
香箱車に蓄積されていたバネの力が全部ゆるんだら「てんぷ」の取り外しに移ります。
テンプの取り外しと保管
主ゼンマイにあった動力源が解放され輪列がフリーになった状態でテンプ受のネジを緩めテンプを受ごと外します。
このとき、十分すぎるくらい注意を払ってテンプのヒゲゼンマイを歪ませることがないよう気を付けます。
外したテンプ受は裏返しにして保存します。
ここでは、7S26の地盤を削った治具に納めています。
アンクル受の取り外し
テンプが外せたら、アンクル受のネジ2本をゆるめアンクル受とアンクルを外します。
このゼンマイの巻き上げが出来ない状態で残りの作業を続けていきます。
角穴車の取り外し
アンクルを取り外して輪列がフリーな状態になったら、角穴ネジを緩めて角穴車を取り外します。
このとき角穴車が空転しないよう押さえながらネジを回します。
1番受の取り外し
ここまで出来たら、一番大きなプレートである1番受を固定している3本のネジを緩めて1番受を取り外します。
この段階で取り外せるのはコハゼと歯車4つです。
組立のときは、これらの歯車を外した順と逆に入れるとスムーズなので仕組みを理解しておきます。
2番受の取り外し

文字盤側で筒カナを外す
歯車4つを取り除いたら、いったん文字盤側に返して残っていた筒カナをピンセットで真上に引き抜きます。
その後、向きを表に戻して2番受のネジ1本を緩め、2番受と2番車を取り外せば時計の運針にかかる主要な部分の分解は終了です。
まだ、地板にはパーツが残っていますが、それらは時計に係る知識に頼ることなく機械的な技術が理解できていれば分解は容易いかと思います。
NH35ムーブメント分解のポイント
今回取り上げた時計の運針に係る部分の分解は、主ゼンマイの解放や取り外したテンプの扱いなど注意すべき重要なポイントがいくつかあります。
また、先に書いた通りここでの解説だけでは必要な情報を満たしているとは言えません。
それでも、このゼンマイのエネルギーを解放する手順とテンプの取り扱いに気を付けるといった2つのポイントを押さえておくだけも、趣味レベルの時計オーバーホールのを達成させるのには役立てることが出来るでしょう。
今回の工程では、針の運針やゼンマイの巻き上げにかかる部分を分解し、残るは巻真周りや「かんぬき」などの操作系のパーツだけになります。
分解後のパーツの洗浄も重要ですが、ここまで行った駆動系の分解と組み立てを、いかに慎重に進めていくかが素人作業のオーバーホールを成功(とりあえず元通り動く時計に仕上げる)に導くカギになるでしょう。
時計オーバーホールの流れ
NH35Aのオーバーホールに向けてカレンダー(日車)を取り外す
NH35Aでメインの駆動系パーツを分解【趣味で楽しむ時計オーバーホール】 いまココ
趣味で楽しむ時計のオーバーホール4R35B(NH35A):組み立て編ステップ1